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奈良地方裁判所 平成9年(行ウ)18号 判決 1998年11月25日

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別紙当事者目録記載のとおり

主文

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告らの平成五年一月一二日相続開始に係る相続税について、いずれも平成八年五月一五日付けでした、(1)原告清水隆昭に対する更正のうち課税価格一億〇一五九万円、納付すべき税額一九〇一万八〇〇〇円を各超える部分及び過少申告加算税賦課決定、(2)原告満水光治に対する更正のうち課税価格一億〇一〇一万円、納付すべき税額一八九一万円を各超える部分及び過少申告加算税賦課決定、(3)原告副田久義に対する更正のうち課税価格一億〇一〇一万円、納付すべき税額一八九一万円を各超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、各更正はいずれも平成八年一〇月七日付け異議決定による一部取消後のもの。以下「本件各更正」、「本件各賦課決定」という)をいずれも取り消す。

第二事案の概要

一  本件は、被告が別表1記載の各土地(以下「本件各土地」という)、普通貯金(以下「本件普通貯金」という)及び建物更生共済(以下「本件共済」という)について、これらをいずれも被相続人の遺産であるとして本件各更正及び本件各賦課決定をしたところ、原告らが、これらは相続人のうちの一人に帰属していたと主張して、その取消しを求めている事案である。

二  争いのない事実等

1  原告清水隆昭(以下「原告隆昭」という)、原告清水光治(以下「原告光治」という)及び原告副田久義(以下「原告副田」という)は、平成五年一月一二日に死亡した清水長治郡(以下「被相続人」という)の相続人であり、相続人関係図は別紙のとおりである。

2  原告らの本件相続に係る相続税の確定申告、修正申告、本件各更正及び異議決定における一部取消等の経緯は、別表3「課税の経緯」記載のとおりである。

3  別表2「相続税の計算」の「<1>相続財産の価額」欄記載の価額は、別表1「本件更正処分で認定した相続財産」記載の財産を含むものであるが、右別表1記載の財産について、被告は、原告らが取得した相続財産であると主張しているのに対し、原告らは、これを争い、これらを原告隆昭の固有の財産であると主張する。なお、相続税の計算の結果は、別表2のとおりである。

4  本件各土地、本件普通貯金及び本件共済の帰属について

(一) 被相続人の死亡当時、本件各土地は、いずれも被相続人の所有名義であった(乙一ないし四、五の1、六の1、七)。

(二) 本件普通貯金及び本件共済は、被相続人の死亡当時、いずれも被相続人名義であった。

三  争点

1  本件各土地は被相続人の遺産か

(一) 原告隆昭は、本件土地1ないし5及び7を時効取得したか(自創法に基づく売渡処分が無効か否かを含む)

(二) 本件土地6の交換対象土地である分筆前の一六三番の土地の賃借人は、被相続人か清水寅松(以下「寅松」という)か

2  本件普通貯金、本件共済は、被相続人の遺産か

四  争点に対する各当事者の主張

1  争点1(本件各土地の相続財産性)について

(一) 本件土地6を除く本件各土地についての原告隆昭の時効収得の有無(自創法に基づく売渡処分が無効か否かを含む)

(被告の主張)

(1) 被相続人は、昭和二二年一二月二日(本件土地2、3及び7)及び昭和二三年七月二日(本件土地1及び4)を売渡時期とする自創法一六条に基づく売渡処分により、本件土地1ないし4及び7の各所有権を取得し、本件相続開始に至るまで同土地を所有していた。

(2) 被相続人は、<1>昭和二三年七月二日を売渡時期とする自創法一六条に基づく売渡処分により、分筆前の六三二番三の土地の所有権を収得し、<2>昭和六〇年一二月二四日、株式会社清水組建設との間で分筆後の六三二番三の土地との交換により、六二九番三の土地及び六三三番二の土地の所有権を取得し、相続開始時に至るまで、本件土地5(分筆前の六三二番三の土地を分筆した上、六二九番三の土地及び六三三番二の土地と合筆した土地)を所有していた。

(3) 被相続人は、本件相続開始に至るまで、本件各土地を耕作していた。原告隆昭は、本件売渡処分当時、七、八歳で、本件売渡処分の相手方としての適格を有さず、被相続人の養子で、被相続人の占有補助者として本件各土地を耕作していたにすぎない。

(4) なお、本件売渡処分につき、原告らは、重大かつ明白な瑕疵があることを具体的事実に基づいて主張していない。

(原告らの主張)

(1) <1>本件売渡処分の買受代金は、原告隆昭の実父寅松の戦死に伴う国からの交付金により支払われたものであること、<2>原告隆昭は、昭和一七年六月二六日、寅松の死亡により本件各土地の小作権を家督相続し、本件各土地の本件売渡処分当時、小作権に基づき、実母ヤスヱを通じて本件各土地を耕作していたことから、原告隆昭自身のみならず、原告隆昭の母ヤスヱ、前々戸主の清水奈良吉らも、本件売渡処分は原告隆昭に対してされたものであると確信していた。

原告隆昭は、<1>本件売渡処分を原因として被相続人に対する所有権移転登記手続がなされたとき(本件土地1につき昭和二五年三月七日、本件土地4及び分筆前の六三二番三の土地につき同月一〇日、本件土地2、3及び7につき同年二月八日)、又は<2>二〇歳になった昭和三五年五月一八日から、一〇年ないし二〇年の間、本件各土地を耕作し、その公租公課を支払ってきた。よって、本訴において、時効収得を援用する。

(2) 本件売渡処分は、小作権を有さず、本件売渡処分の相手方としての適格を有しない被相続人に対してなされたものであるから、無効である。ただし、これは、前記時効取得の事情として主張する。

(二) 本件土地6の交換対象土地である分筆前の一六三番の土地の賃借人は、被相続人か寅松か

(被告の主張)

被相続人は藤山康治から本件土地6の分筆前の一六三番の土地の一部を賃借していたところ、平成三年一月二八日、右賃貸借契約の合意解約に伴う賃借権との交換により、本件土地6の所有権を取得し、本件相続開始に至るまで同土地を所有していた。

(原告らの主張)

寅松は、藤山康治、知男から分筆前の一六三番の土地の一部を賃借していたところ、昭和一七年六月二六日、寅松の死亡により、原告隆昭が分筆前の一六三番の土地の賃借権を家督相続した。

2  争点2(普通貯金、共済の相続財産性)について

(被告の主張)

本件普通貯金、本件共済は、その名義上からも被相続人の遺産である。

(原告らの主張)

本件普通貯金、本件共済は、原告隆昭が振り込み又は支払ったものである。

五  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件各土地の相続財産性)について

1  後掲各括弧内の証拠と弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件土地1及び4は、昭和二三年七月二日自作農創設特別措置法(以下「自創法」という)一六条の規定による売渡(以下「売渡処分」という)を原因として、本件土地1については昭和二五年三月七日付けで、本件土地4については同月一〇日付けでそれぞれ被相続人名義に所有権移転登記が経由された(乙一、四、八の1、4)。

本件土地2、3及び7について、昭和二二年一二月二日売渡処分を原因として、昭和二五年二月八日付けで被相続人名義に所有権移転登記が経由された(乙二、三、七、乙八の2、3、7)。

分筆前の奈良県生駒都斑鳩町大字法隆寺字姫田(現在の法隆寺南二丁目)六三二番三の土地(以下「六三二番三の土地」等と地番のみで示す)は、昭和二三年七月二日売渡処分(以下被相続人を売渡の相手方としてなされた売渡処分を総称して「本件売渡処分」という)を原因として、昭和二五年三月一〇日付けで被相続人名義に所有権移転登記が経由され、その後、六三二番三、五、六の各土地に順次分筆された(乙五の3、4、乙八の5)。

分筆前の六二九番三及び六三三番二の土地は、昭和六〇年一二月二四日、六三二番三の土地との交換を原因として、同月二六日付けで被相続人名義に所有権移転登記が経由された。本件土地5は、分筆前の六二九番三の土地に、六三三番二及び六三二番五の土地を合筆した土地である(乙五の1ないし6)。

被相続人は、藤山知男から分筆前の奈良県生駒郡斑鳩町法隆寺南三丁目(旧大字法隆寺字上宮)一六三番の土地(以下「一六三番の土地」という)の一部を賃借していたが、平成二年一〇月一五日に右賃貸借契約を合意解約した(乙一一の1ないし3)。本件土地6は、分筆前の一六三番の土地から分筆された土地であるが、平成三年一月二八日交換を原因として、同年二月一八日付けで藤山知男から被相続人名義に所有権移転登記が経由された(乙六の1)。

(二) 本件土地1ないし4及び7及び分筆前の六三二番三の土地の各農地台帳には、本件売渡処分当時の耕作者は被相続人であり、売渡の相手方は被相続人である旨の記載がある(乙八の1ないし5、7)。右農地台帳上、耕作者の氏名が清水奈良松から清水長治郎(被相続人)に訂正されているものがあるが、戸籍上、被相続人の親族に清水奈良松という氏名の者が存在していた跡はない(甲七ないし一二)。

(三) 原告隆昭は、昭和一五年五月一八日生で、本件売渡処分があった昭和二二ないし二三年当時、七ないし八歳であった。

2  売渡処分の無効について

原告らは、本件売渡処分が無効であると主張するが、本件売渡処分当時、原告隆昭が自創法一六条一項に定める当該農地につき耕作の業務を営む小作農で自作農として農業に精進する見込みのあるものであったと認めるべき証拠はなく、前認定の事実によれば、被相続人に当該農地を売り渡した本件売渡処分に重大かつ明白な瑕疵があるとは考えられない。したがって、被相続人は、本件売渡処分により本件土地1ないし4及び7並びに分筆前の六三二番三の各土地の所有権を取得したというべきである。

3  時効取得について

(一) 前認定の事実のほか、証拠(各項に掲記のもの)によれば、次の事実が認められる。

(1) 被相続人の妻ヤスヱは、昭和一五年に寅松と結婚し、寅松の戦死後の昭和二一年に寅松の弟である被相続人と結婚した者であり、寅松や被相続人が徴兵されている間、農業に従事し、これをヤスヱの弟の木邨石松が手伝っていた(甲一六)。

原告隆昭は、昭和二二年ないし二三年ころ七、八歳で、学校から帰宅後、麦踏みを手伝う程度であり、一人前に耕作や採り入れの仕事をするようになったのは成人してからであった(甲一六、原告隆昭三丁表、九丁表)。

(2) 新農家台帳には、昭和四一年の農業への従事状況として、被相続人については、従事の程度は基幹で、自家農業への従事日数一五〇日、兼業への従事日数一五〇日、原告隆昭については、従事の程度は補助で、自家農業への従事日数八〇日と記載され(乙九)、被相続人ら作成の農地法三条の規定による許可申請書には、平成二年一〇月ころの農業への従事状況として、被相続人については一五五日、原告隆昭については六〇日と記載されている(乙一〇の1)。

また、被相続人は、平成二ないし平成四年分につき、各年二〇数万円の農業収入がある旨記載した農業所得明細を奈良税務署長・斑鳩町長宛てに提出している(乙一二の1ないし3)。

(3) 被相続人は、平成二年一〇月一五日、農業経営の拡大目的で、清水秀隆から三筆の田畑を賃借することとし、農地法三条の規定による許可申請書を斑鳩町農業委員会に提出したり(乙一〇の1)、藤山知男からの農地の賃貸借契約につき、平成二年一〇月一五日、合意解約をし、斑鳩町農業委員会へ農地法二〇条六項による合意解約の通知をしたりした(乙一一の1ないし3)が、原告隆昭は、右書面の作成、提出に関与していなかった(原告隆昭六丁表、一〇丁裏、一一丁表裏)。

(4) 本件各土地については、原告隆昭が原告光治及び原告副田を被告として持分移転登記請求訴訟を提起し、被告らが事求原因事実を争わなかったため、和解又は判決により、平成七年九月五日付けで平成五年一月一二日相続を原因として原告ら三名に対して持分各三分の一とする所有権移転登記がなされた上、同日付けで昭和三五年五月一八日時効取得を原因として、原告隆昭に対して、原告光治及び原告副田の各持分全部移転の登記がなされている(乙一ないし四、五の1、六の1、七)が、右時効取得の起算日とされている昭和三五年五月一八日は原告隆昭が成人した日である。

(二) 原告らは、原告隆昭が昭和二二ないし二三年の本件売渡処分時に本件1ないし4及び7並びに分筆前の六三二番三の各土地の占有を開始した旨主張する。前認定によれば、本件売渡処分によって右各土地の所有権を取得したのは被相続人であったこと、被相続人の妻ヤスヱは寅松らが徴兵されている間、農業に従事していたこと、原告隆昭は、本件売渡処分があった昭和二二年ないし二三年ころ七、八歳であり、農業の簡単な手伝いをする程度で、耕作の業務を営んでいたとは認められず、一人前に耕作等をするようになったのは成人してからであったことが認められる。

右事実によれば、原告隆昭が本件売渡処分時に右各土地の占有を開始したとは認めることはできない。また、原告らは、原告隆昭自身のみならず、その母ヤスヱ、前々戸主の清水奈良吉らも、本件売渡処分が原告隆昭に対してされたものであると確信していた旨主張するが、前認定の事実からすれば、このような事実を認めることはできない。

(三) 原告らは、さらに、原告隆昭が成人した昭和三五年五月一八日の時点で右各土地の占有を開始した旨を主張する。しかし、前認定の事実によれば、原告隆昭の占有は、被相続人の補助者としてのそれに止まるものであり、本件全証拠によっても、原告隆昭が成人した昭和三五年五月一八日の時点で右各土地の占有を開始したとは認められず、また、その占有の態様が他主占有から自主占有に転換したなどという主張も立証もない。

(四) 以上によれば、原告隆昭が本件土地1ないし4及び7並びに分筆前の六三二番三の各土地を時効取得したとは認められない。

4  分筆前の一六三番の土地の賃借人について

前記1(一)の三段目以下及び3(一)(3)に認定した事実、ことに、分筆前の一六三番の土地の賃貸借契約を被相続人が解除していることなどに照らせば、分筆前の一六三番の土地は被相続人が藤山知男から賃借していたことが認められる。この点、原告らから、賃貸人である藤山知男の原告隆昭宛の分筆前の一六三番の土地(上宮の畠五〇坪)賃料を四ないし六年分まとめて受領した旨の領収書(甲六の1ないし3)が証拠として提出されているけれども、原告隆昭が同土地の賃借人であったことを裏付ける証拠としては不十分で、他にこれを裏付ける証拠もない。

5  以上のとおり、本件各土地は、被相続人の死亡の時、被相続人に帰属していたことが認められる。

二  争点2(普通貯金、共済の相続財産性)について

前記争いのない事実等によれば、本件普通貯金及び本件共済は、被相続人の死亡の時、被相続人名義であったことが認められ、反証がない限り、名義人のものであると推定すべきであるところ、本件では原告らから有効な反証がないから、本件普通貯金及び本件共済は、被相続人の死亡の時、被相続人に帰属していたと推定される。

三  以上の事実関係によれば、別表1「本件相続財産」記載の財産は、原告らが取得した相続財産であるというべきであり、別表2の計算により、原告らが納付すべき税額は、同表記載のとおりとなる。

右金額は、いずれも本件各更正(ただし、いずれも平成八年一〇月七日付け異議決定による一部取消後のもの)と同額であるから、本件各更正は適法であり、これに伴う本件各賦課決定も適法である。

第四結論

よって、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。

(平成一〇年一〇月二八日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 前川鉄郎 裁判官 川谷道郎 裁判官 田口治美)

(別紙)

当事者目録

奈良県生駒郡斑鳩町法隆寺二丁目一〇番一〇号

原告 清水隆昭

奈良県生駒郡斑鳩町法隆寺東一丁目三番三一号

原告 清水光治

奈良市般若寺町二八四番地

原告 副田久義

右三名訴訟代理人弁護士 本家重忠

奈良市登大路町八一番地

被告 奈良税務署長 田里眸

右指定代理人 高橋伸幸

同 山本弘

同 谷川利明

同 臼本進治

同 今辻義嗣

同 水垣修一

同 別府哲郎

同 間佐古佳紀

別紙

相続人関係図

<省略>

別表1

本件更正処分で認定した相続財産

<省略>

別表2 相続税の計算

<省略>

別表3

課税の経緯

<省略>

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